鳥の歌という曲があります。スペイン、カタルーニャに古くから伝わる民謡で、キリスト生誕を鳥達が祝っている曲だと言われています。
1971年、カタルーニャ出身のチェリスト、パブロ・カザルスが世界国際平和ディに国連本部で演奏をし、『私の生まれ故郷の鳥達は、peace,peaceと鳴く』とスピーチの中で話した事によって有名にもなっています。
カザルスのその時のスピーチを聞いてみました。
日本でも確かに、山を歩いていると、peace.peaceと鳴く鳥がいます。鳥たちは地面や地面近くにいる事も多く、数多くの美しい鳥を間近に見かけますが、peaceの鳴き声はいつも高い所から聞こえるので、どの鳥の鳴き声かは今の所、わかっていません。
カザルスのスピーチでは、in the sky, in the spaceという言葉を使っていて、鳥達がとても広い大空を舞いながら peace,peaceと鳴いている自由な姿が想像出来ます。
しかしながら、この曲をチェロで弾いていると、あまり『祝っている』雰囲気ではないように思います。どちらかというとお葬式のような厳かな雰囲気もあって、鳥達が祝っている、という説明が腑に落ちない気がします。
これはクリスマス・キャロルだと書いてあるので、どんな歌詞かと思い、歌詞を探して読んでみました。
キリスト生誕に、鳥達がお祝いに来ます。
小鳥、皇帝の鷲、スズメ、アオヒワ、シギ、ツグミ、ナイチンゲール、ルリビタキ、ノビタキ、カナリア、キツツキ、ウグイス、ウズラ、、
次々に来て、喜び歌います。
その中で、こんな歌詞が出てきます。
イエスが生まれた、私たちを罪から救うためにそして喜びを与えるために。
死は克服された。私の人生が今始まる。
主の栄光のために。夜明けを祝うために。
冬でもなく夏でもないむしろ春である。
花が生まれる甘い香りをあたりに漂わせる、そして全世界を満たす。
5月が来るぞ 。金木犀が答える。
すべての木が再び緑になる。
すべての枝に花が咲く
まるで春のように。
こんな素晴らしいものが目の前にあるんだ。
罪や救い、という言葉も出てくる通り、それが荘厳な雰囲気になっているのかも知れません。
でも、クリスマスキャロルを合唱しているのを聴くと、失った悲しみを感じるメロディで、どうしても『祝い』という感じがしません。
歌詞の内容と、音の持つイメージ、性質のようなものが一致しないように思います。
この歌詞はいつ出来たのかを調べてみると、ずいぶん古くからこのような歌詞で歌われていたとの記述があるそうです。
ただ、最初の楽譜はすでに失われているのだとか!最初はこれらの音を使っていなかった、ということは、
おそらく違う調で、違う音符で弾かれていた。
いくつもの時代を経て、様々に編曲を重ね、今では原型通りではないようです。
スペイン内戦でフランスに亡命した事のあるカザルスは、自由と平和を強く願っていました。
カザルスは、自由と平和を願ってこの曲をいつも演奏会の最後に演奏していたそうです。
それぞれの時代に様々な編曲を経てこのようなメロディとなった『鳥の歌』、失われた悲しみを感じるメロディは、紛争で祖国を追われる状況にも重なります。
4月23日、西宮市プレラホールでこの曲を演奏します。